●司法通訳倫理規程の必要性
司法通訳は、刑事事件の被告人、被疑者、民事事件の原告、被告をはじめとして、司法手続の対象となる多くの外国人等の人権に関わる重要な業務です。
重要な業務に携わる専門職として、当然に、そこには相応の職業倫理が求められるはずです。
実際、先進国には、法廷通訳をはじめとする司法通訳人について倫理規定をもっている国や地域も少なくありません。
日本には、司法通訳人に関する広く認識され、支持されている「倫理規程」は、いまだ存在しません。しかし、それは「規程」が存在しないというにすぎず、「倫理」が存在しないということではないでしょう。
倫理規定はなくても、言渡し前の判決内容や、弁護人接見での弁護士と被疑者の会話などについて知ることとなる司法通訳人には、職業倫理上、当然に守秘義務が求められるはずです。しかし、そういうことについてさえ、明確に規程する「倫理規定」が、現在の日本には存在しないのです。
現在の日本で、司法通訳倫理は、いわば「不文律」の状態にあると言えるでしょう。
しかし、「不文律」は、不明確なものです。
人権に関わる重要な職務を担う司法通訳人が遵守べき倫理について、司法通訳を行うだれもが明確に知ることができる「倫理規定」は、是非とも必要なものと言えるでしょう。
司法通訳について倫理規程を設けるべきであるとの主張は、今に始まったことではなく、これまでにもありました。その作成が試みられた例もあります。しかし、残念ながら、実際的な実を結ぶことなく終わっているものと思われます。
しかし、司法通訳倫理規定をつくることは、是非とも必要なことです。
●司法通訳倫理に関する当会の取り組み
当会は、設立直後から、司法通訳倫理規程の必要性を感じ、その作成に取り組んできました。
2010年11月には、現在の「司法通訳養成講座」の前身である「司法通訳技能検定試験対策講座」において、青戸理成 弁護士が、司法通訳倫理について解説しています。
青戸弁護士がこのとき解説した内容は、司法通訳倫理に関する当会の基本的な考え方示すものです。参考資料として、当時のレジュメを掲載いたします。
当会は、同年12月には、当会内部において具体的な「司法通訳倫理規程(案)」の作成を始めました。
そして、2014年7月に至り、この「司法通訳倫理規程(案)」を土台として、当会としての「司法通訳倫理規程(第1案)」を作成しました。
もちろん、これが最善・最良のものであると主張するつもりはありません。これは、まだまだスタートラインにすぎません。これを土台としつつも、多くの方のご意見やご批判を受け、内容をよりよいものへと改訂してゆく必要があるものと考えています。
そうして、最終的には、多くの方に支持していただける「司法通訳倫理規程」を作成することができれば、と当会は考えています。
今年(2016年)は、当会に関与する司法通訳人、弁護士だけでなく、研究者の方々などにも参加していただく研究会を立ち上げる予定です。
みなさまのご理解とご支援、ご協力をお願いいたします。